脳挫傷とは
脳挫傷(のうざしょう)とは、外部からの強い衝撃によって脳そのものが損傷を受けた状態を指します。
頭をぶつけたとき、脳は頭蓋骨の中で揺れ動きます。その際、骨の内側や突起部分に脳がぶつかって組織が傷つくことがあり、これが脳挫傷です。
単なる打撲(脳震盪)とは異なり、脳の細胞や血管が損傷して出血や腫れを伴うことが多く、重症化すると命に関わる危険もあります。
交通事故や転倒、スポーツ中の衝突などが主な原因で、若年層から高齢者まで幅広い年代で発生します。
脳挫傷の原因
脳挫傷は、頭部に強い力が加わることで起こります。原因の多くは以下のような外的要因です。

- 交通事故(車・バイク・自転車)による衝撃
- 転倒・転落による打撃
- スポーツ中の接触や転倒(格闘技・ラグビー・スキーなど)
- 暴行や事故による打撃
また、衝撃が直接的でなくても、頭が激しく揺さぶられたことによる「加速・減速外傷」でも脳挫傷は生じます。
脳はやわらかい臓器であり、頭蓋骨内で前後に強く動くことで、打撃部位の反対側(対側)にも損傷が起こることがあります。
特に高齢者では、骨がもろく転倒しやすいため、軽い打撲でも脳挫傷を伴うことがあります。
また、飲酒後や意識が低下した状態での転倒は発見が遅れやすく、重症化の一因になります。
脳挫傷の症状
脳挫傷では、損傷した脳の部位によって症状が異なります。
主な症状
- 頭痛
- 吐き気・嘔吐
- 意識障害(もうろう、昏睡など)
- 記憶障害や混乱
- 手足のまひ・しびれ
- 言葉が出にくい、ろれつが回らない
- けいれん
- 片側の瞳孔が開く(瞳孔不同)
症状は受傷直後に現れることもあれば、数時間〜数日後に悪化して発症することもあります。
特に注意すべきは、最初に意識を取り戻しても、**その後再び意識が悪化する“再昏睡”**の状態です。これは脳内出血や腫脹の進行を意味しており、緊急の治療が必要になります。
脳挫傷の検査・診断
脳挫傷が疑われる場合、速やかに画像検査を行います。
CT検査
最も重要な検査で、脳の出血や腫れを短時間で確認できるため、救急現場でも第一に実施されます。
打撃部位や出血の範囲、脳浮腫(脳の腫れ)の有無を正確に把握できます。
MRI検査
CTでは見つけにくい微細な損傷や脳幹部の変化を調べるのに有効です。
特に軽症例や回復期の脳機能評価に用いられます。
神経学的診察
意識レベルや運動機能、言語機能などを評価し、損傷の部位と重症度を判断します。
また、頭蓋骨骨折の有無も重要な判断材料となります。
脳挫傷の治療法
治療は、損傷の程度・出血の有無・意識障害の進行度によって異なります。
保存的治療(軽症〜中等症)
出血や腫れが軽度であれば、安静と薬物療法による経過観察が中心です。
脳圧を下げるための点滴や、脳のむくみ(脳浮腫)を抑える薬が投与されます。
また、けいれん予防薬や鎮静剤を使用することもあります。
外科的治療(重症例)
出血量が多い場合や、脳の腫れで生命が危険にさらされている場合は、外科手術(開頭術)が必要になります。
手術では、頭蓋骨の一部を開けて血腫を除去し、脳を圧迫している原因を取り除きます。
場合によっては、脳の腫れを和らげるために頭蓋骨を一時的に外す減圧術を行うこともあります。
集中治療とリハビリテーション
重症例では集中治療室(ICU)で全身管理を行い、血圧・呼吸・脳圧の安定化を図ります。
回復期には、運動や言語、記憶機能を回復させるためのリハビリテーションが不可欠です。
早期からリハビリを始めることで、後遺症を最小限に抑え、社会復帰を目指すことができます。
脳挫傷の後遺症について
脳挫傷では、損傷の部位や範囲によっては回復後も後遺症が残ることがあります。
脳は部位ごとに異なる働きを担っているため、損傷した場所によって症状の現れ方も異なります。
たとえば、前頭葉が損傷すると注意力や判断力の低下、感情のコントロールが難しくなることがあり、
側頭葉や海馬の損傷では記憶障害や言語障害がみられることがあります。
また、運動を司る部分の損傷では手足のまひやふらつき、視覚野の損傷では視野の欠けが起こる場合もあります。
こうした後遺症は時間の経過とともに改善していくことも多い一方で、完全に元の状態に戻らないケースもあります。
そのため、回復期には理学療法・作業療法・言語療法などのリハビリテーションを継続することが非常に重要です。
リハビリを通じて機能を補い、社会生活や仕事への復帰を目指します。
また、身体的な症状だけでなく、気分の落ち込みや不安感などの心理的変化が生じることもあるため、
必要に応じて医師や臨床心理士のサポートを受けながら、長期的に回復を支えていくことが大切です。
よくある質問(Q&A)
脳挫傷と脳震盪の違いは何ですか?
脳震盪は、頭部への衝撃によって一時的に脳の機能が乱れる状態で、脳の構造そのものに明らかな損傷はありません。
一方、脳挫傷は脳組織が実際に損傷し、出血や腫れが生じている状態です。
つまり、脳震盪は「機能的な一時停止」、脳挫傷は「構造的なダメージ」と言えます。
脳挫傷の方が重症であり、適切な管理が必要です。
脳挫傷は完治しますか?
軽度の脳挫傷であれば、時間の経過とともに回復することが多いです。
ただし、損傷が深い場合や出血が広範囲に及ぶ場合は、記憶障害・集中力低下・性格変化などの後遺症が残ることがあります。
早期の治療とリハビリによって、機能をできる限り回復させることが大切です。
脳挫傷はどれくらいで退院できますか?
症状の重さによって異なりますが、軽症例では1〜2週間ほどで退院できることもあります。
中等症以上の場合は、入院が1か月以上に及ぶこともあり、その後リハビリを継続するケースもあります。
退院後もしばらくは疲れやすさや集中力の低下が残るため、無理のないペースで社会復帰することが望まれます。
脳挫傷の後、日常生活で気をつけることはありますか?
回復後も、頭部を再び強く打たないよう注意することが最も重要です。
自転車やバイクでは必ずヘルメットを着用し、転倒のリスクがある場所では慎重に行動しましょう。
また、睡眠不足や飲酒は脳への負担を大きくするため、規則正しい生活を意識することも大切です。
脳挫傷は再発することがありますか?
一度治った脳挫傷そのものが「自然に再発」することはありません。
しかし、再び頭部を打撲した場合に同様の損傷を起こす可能性はあります。
脳挫傷の既往がある方は、次の外傷で重症化しやすいため、スポーツや仕事などで再び頭部に衝撃が加わらないよう注意が必要です。
たんこぶは脳に影響しますか?
たんこぶは、頭をぶつけたときに皮下出血(皮膚の下の血管が破れてできた血のかたまり)が生じて腫れたものです。
そのため、基本的には頭皮や皮下組織の損傷であり、脳そのものに直接の影響はありません。
ただし、強い衝撃を受けた場合や、ぶつけたあとに頭痛・吐き気・ぼんやりするなどの症状が続く場合は注意が必要です。
そのようなときには、脳挫傷や硬膜下血腫など、頭蓋内で出血が起きている可能性もあるため、早めに医療機関を受診してください。


















