脳出血とは
脳出血とは、脳の血管が破れて脳の内部に出血が起こる状態をいいます。脳の中にたまった血液が周囲の神経細胞を圧迫し、脳の働きを妨げることでさまざまな症状を引き起こします。
出血が起こると、短時間のうちに症状が悪化することが多く、脳卒中(脳血管障害)の中でも緊急対応が必要な疾患のひとつです。
脳出血は特に高血圧との関係が深く、長年の血圧の負担によって血管の壁がもろくなり、ある日突然破れることで発症します。発症直後の対応が、その後の回復や後遺症の程度を大きく左右します。
脳出血の種類・症状
脳出血は、出血が起きた部位によって次のように分類されます。
被殻出血(ひかくしゅっけつ)
脳の中心部に近い「被殻」という部分で起こる出血で、最も頻度が高いタイプです。片側の手足が動かなくなったり、言葉が出にくくなったりします。
視床出血(ししょうしゅっけつ)
感覚を司る視床に出血が起こるタイプで、身体の片側がしびれる・感覚が鈍くなるといった症状が現れます。重症例では意識障害を伴うこともあります。
橋出血(きょうしゅっけつ)
脳幹にある「橋」という場所に出血が起こると、意識が急に失われたり、呼吸や心拍が乱れるなど、命に関わる重篤な状態になることがあります。
小脳出血(しょうのうしゅっけつ)
平衡感覚をつかさどる小脳で出血すると、強いめまい、吐き気、ふらつきなどが生じます。出血が大きいと、脳幹を圧迫して意識障害を引き起こすこともあります。
皮質下出血(ひしつかしゅっけつ)
脳の表面近くで出血するタイプで、手足のしびれや麻痺、言語障害など、比較的軽度の症状で見つかることがあります。
主な自覚症状としては、以下のようなものがあります。

- 突然の激しい頭痛
- 片側の手足のしびれや脱力
- ろれつが回らない、言葉が出ない
- めまい、ふらつき、吐き気
- 意識がもうろうとする、昏睡
- 物が二重に見える、視野が欠ける
こうした症状が突然出た場合は、救急要請をためらわないことが大切です。
脳出血の原因
脳出血の多くは、長年続く高血圧が原因です。血圧が高い状態が続くと、脳の細い血管の壁が硬く・脆くなり、ちょっとした圧の変化で破れてしまうのです。
その他の原因には次のようなものがあります。
- 脳動静脈奇形(AVM)やもやもや病などの血管異常
- 脳腫瘍に伴う出血
- 抗凝固薬(血液をさらさらにする薬)の影響
- 外傷(頭を強く打つなど)
- アミロイドアンギオパチー:高齢者に多く、血管にアミロイドというたんぱくが沈着して脆くなる疾患です。
高血圧や糖尿病、喫煙、過度な飲酒などは血管を傷つけやすく、発症リスクを高めます。日常的な生活習慣の積み重ねが、脳出血の背景にあることが少なくありません。
脳出血の後遺症
出血の場所や大きさによって、後遺症の程度はさまざまです。代表的なものには次のようなものがあります。

- 片麻痺(半身のまひ)
- 言語障害(うまく話せない・理解できない)
- 嚥下障害(飲み込みにくい)
- 視野欠損や視力低下
- 感情のコントロールが難しくなる(感情失禁)
- 記憶力や集中力の低下
出血の規模が大きい場合、命に関わることもありますが、治療とリハビリによって機能の回復を目指すことが可能です。
早期からリハビリを開始することで、後遺症を軽減し、再び日常生活を取り戻せる可能性が高まります。
脳出血の検査・診断
脳出血が疑われる場合は、できるだけ早く脳の状態を確認することが重要です。
主な検査には次のようなものがあります。
CT検査
最も迅速に出血の有無を確認できる検査です。発症直後の診断に欠かせません。
MRI検査
CTよりも詳細に脳の内部構造を描き出すことができ、出血の部位や範囲、周囲の損傷の程度を確認できます。
血液検査
血液の凝固機能や肝機能、腎機能を調べ、出血の原因や薬の影響を評価します。
血管造影検査(MRAや脳血管撮影)
血管の奇形や動脈瘤など、出血の背景となる異常を確認するために行います。
診断のスピードと正確性が、その後の治療や命の予後に直結します。
脳出血の治療法
脳出血の治療は、出血の部位や量、患者様の全身状態によって方法が異なります。
主に以下のような治療が行われます。
保存的治療(内科的治療)
出血量が少なく、意識が保たれている場合には、まずは血圧を安定させ、脳の腫れ(脳浮腫)を抑える治療を行います。
必要に応じて点滴や薬で血圧を管理し、再出血を防ぎます。脳のむくみを抑える薬(浸透圧利尿薬など)を使うこともあります。
外科的治療(手術)
出血量が多く、意識障害や圧迫症状が強い場合には、手術で血の塊(血腫)を取り除くことがあります。
開頭手術のほか、小さな穴を開けて吸引する内視鏡的血腫除去術など、身体への負担を抑える方法も選択されます。
リハビリテーション
急性期の治療が終わった後は、できるだけ早期からリハビリを開始します。
理学療法・作業療法・言語療法などを組み合わせて、運動機能や言語機能の回復を目指します。
脳出血の予防法
脳出血は、日常生活の中でリスクを減らすことが可能です。
とくに次のポイントを意識しましょう。
血圧を適切に保つ
定期的な測定と、必要に応じた内服管理を続ける
減塩を心がける
塩分のとり過ぎは血圧を上げやすいため、食事での工夫が大切
禁煙・節酒
たばこと過度な飲酒は血管を傷つけやすくします
体重・血糖・脂質の管理
生活習慣病の予防は、血管を守ることにつながります
ストレスをためすぎない・十分な睡眠をとる
ストレスを減らし、十分な睡眠で血圧を安定
これらを意識して生活することで、再発や他の脳卒中(脳梗塞など)の予防にもつながります。
よくある質問(Q&A)
脳出血で死亡するまでの時間は?
脳出血の進行は出血量や部位によって異なりますが、大量出血の場合は発症から数分〜数時間以内に意識を失うことがあります。
特に脳幹や視床、被殻など生命維持に関わる部分での出血は、短時間で呼吸や循環に影響を及ぼすことがあります。
ただし、すべての方が急変するわけではなく、出血が少量であれば命に関わらず回復できるケースもあります。
発症直後の迅速な救急搬送が、命を守るうえで最も重要です。
脳出血後の平均寿命は?
脳出血を起こした後の寿命は、年齢・出血部位・治療開始の早さ・リハビリの有無などによって大きく異なります。
重度の脳出血で意識障害が強い場合は予後が厳しくなりますが、軽度の場合や早期に治療を受けられた場合は長期生存も可能です。
また、再発予防や血圧管理をしっかり続けることで、10年以上健康に過ごす方も少なくありません。
脳出血は一度で終わりではなく、「発症後の生活管理」がその後の寿命を左右します。
脳出血は完治しますか?
一度出血した脳の細胞は完全に元通りにはなりませんが、機能の回復は十分に期待できます。
リハビリテーションを根気強く続けることで、失われた動作や言葉の機能を他の神経が補い、日常生活を取り戻せる場合があります。
また、脳出血を起こした原因(高血圧など)を適切にコントロールすることで、再発を防ぎながら安定した状態を維持することが可能です。
つまり、「完治」というよりは「うまく付き合いながら回復を目指す疾患」といえます。
脳梗塞と脳出血、どっちが重症ですか?
どちらも「脳卒中」に分類され、命に関わる重大な疾患ですが、発症直後の危険性という点では脳出血の方が高い傾向があります。
脳梗塞は血管が詰まって脳細胞が壊死するのに対し、脳出血は血管が破れて脳内に血液が流れ込み、圧迫や腫れを起こすため、急激に症状が悪化することがあります。
一方、脳梗塞も重篤な後遺症を残すことがあり、どちらが「軽い」とは言い切れません。
重要なのは、いずれのケースでも「早期発見と早期治療」が回復の鍵になるという点です。
脳出血の再発を防ぐには?
再発を防ぐためには、血圧の管理と生活習慣の見直しが最も重要です。
塩分の摂取を控え、バランスの取れた食事を心がけましょう。
禁煙・節酒に加え、ストレスを溜めない生活リズムを整えることも大切です。
また、睡眠不足や過労、寒暖差による血圧変動も出血の誘因となるため注意が必要です。
定期的な診察と画像検査を続けることで、血管の状態を早期に把握し、再発リスクを最小限に抑えることができます。


















