慢性硬膜下血腫とは
慢性硬膜下血腫(まんせいこうまくかけっしゅ)とは、頭をぶつけたあと、数週間から数か月の時間を経てから脳の表面に血液がたまり、脳を圧迫する疾患です。
脳は「硬膜」「くも膜」「軟膜」という三層の膜で守られていますが、このうちの「硬膜」と「くも膜」の間に出血が生じ、血液が袋状にたまっていくことで起こります。
若い方ではまれですが、高齢者に多い疾患です。
年齢を重ねると脳がわずかに萎縮して硬膜と脳のすき間が広がり、血管(架橋静脈)が引き伸ばされた状態になります。
そのため、軽い転倒や頭をぶつけた程度の衝撃でも血管が切れやすくなり、ゆっくりと血液がしみ出していくのです。
最初は何の症状もありませんが、出血がじわじわと溜まっていくうちに脳を圧迫し、数週間から数か月後に突然、頭痛や手足のまひといった症状が現れます。
特徴的なのは、受傷から発症まで時間があくことです。
多くの方が「そんなに強く打った覚えはない」「転んだのは1か月以上前」などと話されます。
このため、家族から「年齢のせいで動作が遅くなった」「最近ぼんやりしている」と誤解され、発見が遅れるケースも少なくありません。
しかし、慢性硬膜下血腫は適切な治療によって回復が見込める疾患です。
疑わしい症状が見られた場合は、早めに脳神経外科を受診することが大切です。
慢性硬膜下血腫の症状
症状は、血腫がどの程度の大きさに達しているか、どの位置で脳を圧迫しているかによって異なります。
初期には軽い頭痛だけということもありますが、血腫が増えるにつれて次第に神経症状が現れます。
代表的な症状には以下のようなものがあります。

- 鈍い頭痛・頭重感(特に朝方に強い)
- 手足のしびれや力が入りにくい
- 歩行がふらつく・転倒しやすくなる
- 言葉が出にくい・ろれつが回らない
- もの忘れやぼんやりした様子
- 食欲の低下や眠気
- 意識がもうろうとする・反応が鈍い
片側の手足の動きが悪くなる「片麻痺」や、会話の理解が遅れる「失語症状」が出ることもあり、脳梗塞と間違われることが多い疾患でもあります。
また、症状が一時的に良くなったり悪化したりを繰り返すことも特徴です。
このような場合も放置せず、頭部CT検査を受けることが重要です。
慢性硬膜下血腫の原因
最も多い原因は、軽い頭部外傷によって細い静脈(架橋静脈)が傷つくことです。
若い方では出血がすぐに吸収されることが多いのですが、高齢者では脳の萎縮により血管が伸びて脆くなっているため、少量の出血が残り、時間をかけて液体化していきます。
その液体が袋状に溜まり、再出血を繰り返すことで血腫が次第に大きくなると、脳を圧迫して症状が現れます。
また、以下のような要因も関係します。
- 抗血小板薬・抗凝固薬の服用(血液が固まりにくくなる)
- アルコールの長期摂取(脳萎縮や肝機能障害による凝固異常)
- 高齢による転倒・打撲の増加
- 脳萎縮・認知症・てんかんなどの既往
- 交通事故・スポーツ外傷
まれに、明らかな外傷歴がないのに発症することもあり、無症候性の微小出血が長期間かけて拡大していくケースも報告されています。
慢性硬膜下血腫の検査・診断
疑われる場合には、頭部CT検査が最も重要です。
CT画像では、脳の外側に「三日月形」の陰影として血腫が確認されます。
血腫がどの程度の厚みか、脳をどれくらい圧迫しているかを評価することで、治療方針を判断します。
MRI検査を行うと、血腫の性状(新しい出血か古い出血か)をより詳しく把握できます。
また、血液検査で出血傾向や抗凝固薬の影響を確認することもあります。
認知症や脳梗塞といった他の脳疾患との区別がつきにくいこともあり、画像診断による確定が重要です。
慢性硬膜下血腫の治療・手術
治療法は、血腫の量や症状の重さによって異なります。
軽症例では自然に吸収されることもあるため、CTで経過観察を行いながら慎重に判断します。
しかし、血腫が大きい場合や神経症状が強い場合は、手術による除去が基本となります。
穿頭洗浄術(せんとうせんじょうじゅつ)
最も多く行われる方法で、局所麻酔で頭蓋骨に小さな穴を開け、血液を洗い流して排出する手術です。
手術時間は1時間前後で、体への負担も少なく、高齢者でも比較的安全に受けられる治療です。
手術後はドレーン(排出管)を数日間留置し、再出血を防ぎます。
再発とその対策
手術後も10〜20%ほどの方で再発がみられます。
血腫が再び溜まる場合や、反対側に新たに血腫ができるケースもあります。
特に、抗血小板薬や抗凝固薬を使用している方、アルコール多飲の方では再発しやすい傾向にあります。
再発防止のためには、転倒を防ぐこと、薬剤管理を徹底すること、定期的な画像チェックが大切です。
回復とリハビリ
血腫を除去すると、多くの方は術後数日〜1週間で症状が改善します。
ただし、長期間圧迫が続いた場合や高齢で全身状態が弱い場合は、歩行や言語機能の回復に時間がかかることがあります。
そのような場合はリハビリテーションを行い、再び日常生活を取り戻す支援を行います。
慢性硬膜下血腫の後遺症と再発予防
適切な治療を受ければ多くの方は回復しますが、まれに軽い麻痺や認知機能の低下が残ることがあります。
これは、血腫による脳圧迫の期間が長かった場合に起こりやすいです。
再発予防としては以下が重要です。
- 転倒しないよう室内環境を整える
- アルコールを控える
- 医師の指導のもとで薬剤管理を行う
- 定期的な画像検査を続ける
「頭を打ったあと何となく元気がない」「話がかみ合わない」と感じたら、早めに医療機関で頭部CT検査を受けることが、命を守る第一歩です。
よくある質問(Q&A)
慢性硬膜下血腫を放置するとどうなる?
放置すると、血腫が次第に大きくなり、脳が強く圧迫されて手足のまひ・意識障害・けいれんなどが出てきます。最悪の場合、命に関わることもあります。初期は頭痛やふらつきなど軽い症状でも、徐々に悪化していくことがあるため、早めの受診がとても大切です。
慢性硬膜下血腫の手術費用はいくらですか?
一般的な穿頭洗浄術(せんとうせんじょうじゅつ)を保険適用で行う場合、3割負担で約8〜15万円程度が目安です(入院期間や使用材料によって変動します)。
高額療養費制度の対象にもなるため、実際の自己負担額はもう少し軽減されることが多いです。詳細は病院の医療相談窓口に確認すると安心です。
慢性硬膜下血腫のチェックリストはありますか?
以下のような項目に当てはまる場合は、慢性硬膜下血腫の可能性があります。
- 数週間前に頭をぶつけたことがある
- 最近、歩行が不安定でよくつまずく
- 言葉が出にくい・呂律が回らない
- 物忘れが急に増えた
- 頭が重く感じる・ぼんやりする
- 以前よりも反応が鈍くなった
一つでも気になる項目があれば、脳神経外科でCT検査を受けることをおすすめします。早期に見つければ、ほとんどの方が回復可能です。
慢性硬膜下血腫はどのくらいの期間で治りますか?
手術を受けた場合、多くの方は数日〜1週間ほどで症状が改善します。
ただし、高齢の方や発症から時間が経っている場合は、脳の回復にやや時間がかかることがあります。
手術後も再発予防のために1〜3か月間の経過観察が行われ、定期的なCT検査で安全を確認します。
慢性硬膜下血腫は再発しますか?
はい、手術後に10〜20%程度の方で再発が報告されています。
特に抗凝固薬を使用している方や、アルコールをよく飲まれる方では再発しやすい傾向があります。
退院後も定期的に画像検査を受け、転倒を防ぐこと、過度な飲酒を避けることが再発予防につながります。
慢性硬膜下血腫は脳梗塞とどう違うのですか?
どちらも「片側の手足のまひ」や「言葉の障害」を起こす点では似ていますが、原因がまったく異なります。
脳梗塞は血管が詰まって脳に血流が届かなくなる疾患、慢性硬膜下血腫は頭の外側に血液がたまり脳を圧迫する疾患です。
CT検査で簡単に区別できるため、疑わしい場合は早めの画像検査を受けることが重要です。


















