体の感覚を脳へ伝える「末梢神経」は、脳や脊髄から枝分かれし、手足や顔など全身に張り巡らされています。
この神経に障害が起こると、感覚が鈍くなったり、ピリピリ・ジンジンといった痺れが現れたりすることがあります。
こうした症状は「末梢神経障害」と呼ばれ、日常生活に支障をきたすことも少なくありません。
末梢神経障害は原因や部位によってさまざまな疾患に分類されます。ここでは、特に痺れが生じやすい代表的な疾患として、
「異常感覚性大腿神経痛」「手根管症候群」「足根管症候群」について詳しく解説します。
異常感覚性大腿神経痛
(いじょうかんかくせいだいたいしんけいつう)
症状の特徴
異常感覚性大腿神経痛は、太ももの外側に痺れや灼熱感(焼けるような痛み)が現れる疾患です。
特徴的なのは、「痛みや痺れが太ももの外側だけに限局している」点です。感覚神経だけが障害されるため、筋力低下はほとんど見られません。
ピリピリとした違和感や感覚の鈍さが長く続くと、衣服が擦れるだけでも痛みを感じることがあります。
原因
この疾患は「外側大腿皮神経」という感覚神経が、骨盤の前側で圧迫されることによって起こります。
きついベルトやコルセット、肥満、妊娠、長時間の立ち仕事などが神経を圧迫し、発症のきっかけとなります。
また、糖尿病による神経障害の一種として発症するケースもあります。
診断と治療
診断は症状の部位や経過から推定し、神経伝導検査やMRIで他の疾患との鑑別を行います。
治療ではまず、神経への圧迫を減らすことが重要です。体重管理や服装の工夫、立ち仕事の改善などが効果的です。
痛みが強い場合には神経ブロック注射や鎮痛薬を使用することもあります。多くの場合、適切な生活改善で症状は軽快します。
手根管症候群
(しゅこんかんしょうこうぐん)
症状の特徴
手根管症候群は、手首の「手根管」と呼ばれるトンネル状の部分で、正中神経が圧迫されることで生じる疾患です。
指先(特に親指・人差し指・中指・薬指の一部)に痺れや痛みが出るのが特徴で、夜間や早朝に症状が強くなる傾向があります。
手がこわばったり、ボタンを留めるなどの細かい動作がしにくくなったりすることもあります。
原因
原因として多いのは、手首の使いすぎや、加齢による腱鞘の肥厚(腱の通り道が狭くなること)です。
また、妊娠・出産期や更年期にホルモンの影響で手根管内のむくみが起こることもあります。
糖尿病や透析、甲状腺機能低下症など、全身性の疾患が背景にあることも少なくありません。
診断と治療
診断は症状の分布と神経伝導検査で行います。
軽症の場合は手首の安静、装具(手首を固定するスプリント)の使用、ビタミンB群の投与などで改善が期待できます。
症状が進行している場合には、圧迫を取り除くための手術(手根管開放術)が検討されます。
治療後は再発予防のため、手の使い方や姿勢の見直しも大切です。
足根管症候群
(そっこんかんしょうこうぐん)
症状の特徴
足根管症候群は、足首の内側にある「足根管」と呼ばれる神経の通り道で、脛骨神経が圧迫されることで起こります。
足の裏やかかと、足の指にかけてジンジン・ピリピリとした痺れや痛みが現れ、長時間立っていたり、歩いたりすると悪化することが多いです。
安静時や夜間にも痛みが続くことがあり、歩行に支障をきたすケースもあります。
原因
原因としては、足首の捻挫後の腫れや骨の変形、ガングリオン(神経近くにできる嚢胞)などによる神経圧迫が挙げられます。
また、扁平足によって足首のアーチ構造が崩れ、神経への負担が増すことも一因です。
糖尿病や静脈うっ滞など、血流の悪化が関係する場合もあります。
診断と治療
診断は神経の走行部位を圧迫した際の痛み(チネル徴候)や、神経伝導検査によって行われます。
治療は原因に応じて行われ、まずは足への負担を減らす保存療法(安静、インソールの使用、消炎鎮痛薬の内服など)が基本です。
症状が改善しない場合や神経圧迫が強い場合には、外科的に圧迫を解除する手術が検討されます。
末梢神経障害の早期対応の重要性
痺れは「一時的な疲れ」や「血行不良」と見過ごされがちですが、末梢神経の圧迫や障害が続くと、感覚の回復が難しくなる場合もあります。特に、糖尿病など全身性の疾患が背景にある場合は、早期発見と治療が大切です。
日常生活の中で以下のような症状がある場合は、神経内科や整形外科での受診をおすすめします。
- 手足の痺れが数日以上続く
- 夜間や安静時にもジンジンする
- 指先の細かい動作がしづらい
- 足の裏の感覚が鈍く、つまずきやすい
症状の原因を特定し、神経の回復を促すことで、生活の質を維持・向上させることが可能です。
よくある質問(Q&A)
末梢神経障害は治るのですか?
原因や進行の程度によって異なりますが、早期に適切な治療を受けることで改善が期待できる場合があります。
神経が一時的に圧迫されているだけであれば、原因を取り除くことで回復することもあります。
一方で、糖尿病やアルコール、ビタミン不足など全身的な要因による神経障害では、完全に元の状態に戻るのは難しいこともあります。
ただし、症状の進行を抑えたり、痛みや痺れを軽くしたりする治療は可能です。
「治る」ことを目指すだけでなく、「悪化させない」ための継続的なケアが大切です。
末梢神経障害で一番多い症状は何ですか?
最も多くみられるのは「手足の痺れ」と「感覚の鈍さ」です。
手の指先や足の裏がジンジン、ピリピリする感覚が現れるほか、温度や痛みを感じにくくなることもあります。
このほか、症状が進むと筋力の低下やバランスの悪化がみられることもあります。
痺れは初期段階では軽い違和感程度のこともありますが、放置すると慢性化する場合もあるため、早めの受診が推奨されます。
末梢神経障害になったらやってはいけないことはありますか?
無理な運動や、痛み・痺れを我慢しての長時間の立ち仕事、同じ姿勢を続けることは避けたほうがよいでしょう。
また、きつい靴やベルトなどで体を締め付けると、神経への圧迫が悪化する場合があります。
アルコールの過剰摂取や喫煙も神経や血流に悪影響を及ぼすため控えることが望ましいです。
一方で、軽いストレッチや温熱療法など、血流を促す工夫は有効な場合があります。
医師の指導のもと、自分に合った生活習慣の調整を行いましょう。
末梢神経障害の検査はどのように行いますか?
症状の出方や部位からおおまかな原因を推測したうえで、「神経伝導検査」や「筋電図検査」が行われます。
これにより、神経のどの部分で信号の伝わりが悪くなっているかを調べることができます。
必要に応じて、MRIや血液検査で腫瘍・糖尿病・栄養状態などの背景疾患を確認することもあります。
検査は痛みを伴うことは少なく、原因を特定して適切な治療方針を立てるために重要です。
末梢神経障害を予防するにはどうすればいいですか?
日常生活の中で、神経に負担をかけない工夫が予防につながります。
バランスの取れた食事でビタミンB群を十分に摂取し、適度な運動で血流を保つことが大切です。
また、糖尿病や高脂血症などの持病がある場合は、血糖値や脂質の管理が欠かせません。
寒さによる血流低下も神経障害を悪化させる要因になるため、冷え対策も効果的です。
神経の健康を維持するには、日々の生活習慣の積み重ねが重要です。


















