可逆性脳血管攣縮症候群
(かぎゃくせいのうけっかんれんしゅくしょうこうぐん)

可逆性脳血管攣縮症候群とは

可逆性脳血管攣縮症候群とは可逆性脳血管攣縮症候群(RCVS:Reversible Cerebral Vasoconstriction Syndrome)は、脳内の血管が一時的に強く収縮し、血流が一時的に低下する疾患です。
“可逆性”という名前のとおり、時間の経過とともに血管の収縮が元に戻る(可逆的に改善する)点が特徴です。

主な症状は、突然起こる激しい頭痛です。
多くの方が「人生で感じた中で最も強い痛み」「雷が落ちたような痛み」と表現するほどで、くも膜下出血と間違われることもあります。
しかし、RCVSではくも膜下出血のように脳内で血液が漏れ出すわけではなく、血管の一時的なけいれん(攣縮)が原因です。

発症年齢は30〜50代に多く、特に女性にやや多くみられます。
数日〜数週間の間に頭痛発作を繰り返すことがあり、適切に治療すればほとんどの方が3か月以内に自然回復します。
ただし、まれに脳梗塞や脳出血を伴うこともあるため、「ただの片頭痛」と思わず早期受診が重要です。

可逆性脳血管攣縮症候群の原因

可逆性脳血管攣縮症候群(RCVS)は、脳内や脳表の動脈が一時的に強く収縮し、数日から数週間かけて回復する疾患です。
発症の仕組みは完全には解明されていませんが、血管の収縮を制御する自律神経の異常反応や、ホルモン・薬剤による影響が関係していると考えられています。

主な誘因(トリガー)

RCVSは「特発性(原因が明確でない)」として発症することもありますが、以下のような誘因が知られています。

性行為(性交時頭痛)

性行為、特にオーガズムの直前・直後は、血圧や心拍数が急激に上昇します。
この際、脳の動脈が急激に収縮して雷鳴頭痛(thunderclap headache)を引き起こすことがあります。
このような症状は「性交関連頭痛」とも呼ばれ、RCVSの典型的な誘因の一つです。

激しい運動やいきみ

ダッシュや重量挙げ、排便時のいきみなど、短時間に強い腹圧や血圧変動を伴う行為も誘因になります。
過剰な交感神経の刺激によって脳血管が攣縮しやすくなります。

入浴やサウナなどによる急な温度変化

急激な体温上昇や血管拡張の反動により、血管の反応性が乱れ、攣縮を引き起こすことがあります。

精神的ストレスや強い感情変化

怒り・恐怖・緊張・悲しみなどによる一過性のストレス反応が、脳血管の過剰収縮を誘発する場合があります。

出産後(産褥期)

出産後の女性では、ホルモンバランスの急変や血圧変動によりRCVSを発症することがあります。
産褥期頭痛として発見されることもあり、若年女性に比較的多いタイプです。

薬剤・嗜好品

交感神経を刺激する薬や物質の影響も報告されています。
たとえば次のようなものです。

  • 抗うつ薬(SSRI、SNRIなど)
  • トリプタン製剤(片頭痛治療薬)
  • 血管収縮薬(市販の鼻炎薬など)
  • 大麻、コカインなどの違法薬物
  • カフェイン・ニコチンの過剰摂取

これらは単独または複数の要因が重なり、結果として脳血管の一時的な過収縮を引き起こすと考えられています。

可逆性脳血管攣縮症候群の症状

最も特徴的なのは、突然発症して数秒〜数分で痛みが最大になる激しい頭痛(雷鳴頭痛)です。頭全体または後頭部に強い痛みを自覚し、発作が数日〜数週間のあいだ反復することがあります。

頭痛以外にみられうる症状

  • 吐き気・嘔吐、光・音過敏
  • 一過性の神経症状:片側の手足のしびれ・脱力、構音/失語、視野の欠けや一過性の視覚障害
  • けいれん発作、意識のもうろう

多くは数週間〜3か月以内に自然回復しますが、まれに脳梗塞・脳出血・くも膜下出血などを合併することがあります。
とくに「生涯最強の頭痛」が性行為・運動・入浴・いきみなどを契機に突然出現した場合は、緊急性が高いため速やかに医療機関を受診してください(くも膜下出血など他疾患との鑑別が必須です)。

可逆性脳血管攣縮症候群の検査・診断

RCVSの診断には、画像検査によって脳血管の攣縮の有無を確認することが最も重要です。

MRI・MRA検査

MRI・MRA検査脳の構造と血管の形を確認する基本的な検査です。
発症直後は異常が見えにくいこともありますが、数日経過後には**「ビーズ状(数珠状)」に血管が細くなっている**所見が見られることがあります。
MRAでは血管の狭窄と拡張が複数部位に見られるのが特徴です。

CT検査・CT血管造影

CT検査・CT血管造影くも膜下出血など他の疾患を除外するために行います。
RCVSはくも膜下出血に非常に似た症状を示すため、まずは出血の有無を確認することが重要です。

脳血管造影(DSA)

より詳細な血管の形態を評価する検査で、血管の攣縮の程度や範囲を直接確認します。
治療後に再検査を行い、血管が正常に戻っていることを確認することで「可逆性」の診断が確定します。

可逆性脳血管攣縮症候群の治療法

RCVSは、多くのケースで自然に改善する疾患ですが、重症化を防ぐためには早期治療が欠かせません。

原因の除去

まずは、原因となり得る薬剤や刺激物の中止が最優先です。
頭痛薬(トリプタン)、抗うつ薬、エフェドリン系薬剤、経口避妊薬などを使用している場合には、医師の指導のもとで中止または切り替えを行います。
また、カフェインやニコチン、違法薬物などの摂取も避ける必要があります。

薬物治療

症状の程度や血管の収縮の強さに応じて、以下のような薬が用いられます。

カルシウム拮抗薬(ニモジピン、ベラパミルなど)

血管を拡張させ、攣縮を緩和します。頭痛の改善にも有効です。

鎮痛薬

痛みをやわらげるために使用しますが、過剰な服用は避ける必要があります。

ステロイド薬

炎症を伴う場合や、症状が長引く場合に検討されることがあります。
治療は数週間から数か月間続け、MRIやMRAで血管の回復を確認しながら薬を減量していきます。

安静と生活管理

発作期は安静が基本です。過度な運動や長時間の入浴、精神的ストレスは症状を悪化させる恐れがあります。
また、睡眠不足や脱水も血管の収縮を誘発することがあるため、規則正しい生活リズムと十分な水分補給を心がけましょう。

再発予防

RCVSは一度回復すれば再発の頻度は低いですが、強いストレスや刺激性の薬剤を再び使用した場合には再発することがあります。
再発を防ぐためには、誘因となった薬や行動を避けること、定期的な経過観察を続けることが重要です。

よくある質問(Q&A)

可逆性脳血管攣縮症候群は再発しますか?

一度回復した後に再発することはまれですが、可能性はゼロではありません。
特に、発症の原因となった薬剤やストレス、過度な運動などを再び行うと、再発のリスクが高まります。
再発を防ぐためには、医師の指示のもとで薬を適切に使用し、睡眠不足や過労、刺激物(カフェイン・タバコなど)を避けることが大切です。
再発しても早期に治療を行えば、多くの方が後遺症なく回復します。

可逆性脳血管攣縮症候群と片頭痛の違いは何ですか?

どちらも強い頭痛を起こしますが、発症の仕方と痛みの持続時間が大きく異なります。
片頭痛は数時間〜数日続く「ズキズキする」痛みで、光や音に敏感になる傾向があります。
一方、RCVSは数秒〜数分の間に突然ピークに達する雷鳴のような痛みで、繰り返し発作が起こるのが特徴です。
また、片頭痛は血管の拡張による痛みですが、RCVSは血管が急激に収縮することによって生じます。

可逆性脳血管攣縮症候群はどのくらいで治りますか?

通常は2〜3か月ほどで自然に回復します。
血管の攣縮は時間とともに改善し、MRIやMRAの再検査で正常な血流に戻っていることが確認されます。
ただし、重度の攣縮で一時的に脳梗塞や出血を伴った場合には、回復まで数か月以上かかることもあります。
医師の指示に従い、経過観察を続けることが大切です。

お風呂や運動はいつから再開してもいいですか?

発症後すぐの時期は、血管の収縮が不安定なため控えることが望ましいです。
入浴や激しい運動は血圧や体温の変化を引き起こし、再発のきっかけになることがあります。
回復の段階に応じて、医師が再開のタイミングを判断します。
一般的には1〜2か月ほど経過し、頭痛が治まってから徐々に再開することが多いです。

可逆性脳血管攣縮症候群で寿命が縮むことはありますか?

適切に治療を受ければ、寿命に影響することはほとんどありません。
RCVSは一時的な血管の異常であり、長期的な脳血管障害を残すケースはまれです。
ただし、治療が遅れると脳梗塞やくも膜下出血を併発する可能性があるため、早期受診と安静が大切です。
回復後は定期的に検査を受け、血管の状態を確認しておくと安心です。

MRI検査をしても異常が見つからないことはありますか?

はい。発症直後の段階では、血管の攣縮がまだ画像に反映されない場合があります。
そのため、初回のMRIで異常が見つからなくても、数日〜1週間後に再検査を行うことで血管の狭窄が明らかになることがあります。
くも膜下出血や脳梗塞など他の疾患を除外するためにも、症状の経過に応じて複数回の検査が必要になる場合があります。

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