特発性低髄液圧症候群
(とくはつせいていずいえきあつしょうこうぐん)

特発性低髄液圧症候群とは

特発性低髄液圧症候群とは特発性低髄液圧症候群とは、髄液(ずいえき)と呼ばれる脳と脊髄を保護する液体が、何らかの原因で漏れ出し、脳を支える圧(髄液圧)が低下してしまう疾患です。
脳は本来、髄液に浮かんでいるような状態で衝撃から守られていますが、髄液が減るとその浮力が失われ、脳が下に引っ張られるように沈み込むことで、頭痛やめまいなどの症状が生じます。

「低髄液圧症候群」には、外傷や手術後に髄液が漏れる「続発性」と、はっきりした原因がわからない「特発性」があります。
後者の特発性低髄液圧症候群(Spontaneous Intracranial Hypotension:SIH)は、外傷がないにもかかわらず自然に発症するタイプです。
比較的まれな疾患ですが、近年MRIなどの画像検査の進歩により、診断されるケースが増えています。

特発性低髄液圧症候群の原因、早期発見について

特発性低髄液圧症候群の正確な原因は明らかではありませんが、脊髄を覆う硬膜(こうまく)に小さな裂け目や亀裂が生じ、そこから髄液が漏れ出すことが主な要因と考えられています。
この硬膜の脆弱性には、体質や加齢、軽微な衝撃などが関係している可能性があります。

特に次のような状況がきっかけになることがあります。

特発性低髄液圧症候群の原因、早期発見について

  • くしゃみや咳、重い荷物を持つなど、一時的に腹圧がかかったとき
  • 激しい運動や転倒、姿勢の変化による軽い衝撃
  • 脊髄周囲の結合組織が生まれつき弱い体質

症状がゆっくり現れることが多く、最初は「疲れによる頭痛」や「肩こり」と誤解されることも少なくありません。
しかし、早期発見・早期治療ができれば完治することが多い疾患です。
「立つと頭が痛い」「横になると楽になる」といった特徴的な症状がある場合には、できるだけ早めに神経内科や脳神経外科を受診しましょう。

特発性低髄液圧症候群の症状

最も代表的な症状は、体を起こしたときに強くなる頭痛(起立性頭痛)です。
横になると数分以内に痛みが軽くなるのが特徴で、このパターンが診断の大きな手がかりになります。

その他の症状には次のようなものがあります。

  • 首や肩のこり
  • めまい、ふらつき
  • 吐き気、嘔吐
  • 耳鳴りや聴力の低下
  • 視界のかすみや複視(ものが二重に見える)
  • 集中力の低下や倦怠感
  • まれに手足のしびれやしびれ感

症状は日によって変化しやすく、朝は軽くても午後に悪化するといった経過をたどることもあります。
また、頭部のMRIでは脳が少し下がって見える(脳下垂)ことがあり、これは髄液量が減っているサインです。

特発性低髄液圧症候群の検査・診断

診断には、画像検査と髄液圧の測定が中心となります。

MRI検査

MRI検査脳や脊髄のMRIでは、以下のような所見が認められることがあります。

  • 硬膜が厚くなって見える(硬膜肥厚)
  • 髄液が漏れている部位の周囲に異常な液体の貯留がある
  • 脳がやや下に沈んでいる(脳下垂)

MRIで典型的な所見が見られれば、診断の確実性が高まります。

髄液圧測定(腰椎穿刺)

実際に髄液圧を測ることで、圧の低下が確認できれば診断の裏付けとなります。
ただし、すべての症例で圧が著しく低下しているわけではないため、総合的な判断が必要です。

RI脳槽シンチグラフィー

放射性物質を微量に注入して髄液の流れを確認する検査です。
漏出部位を特定できる場合もあり、治療方針の決定に役立ちます。

特発性低髄液圧症候群の治療法

治療の基本は、髄液の漏れを止め、自然に回復する力を助けることです。

安静と保存療法

軽症例では、ベッドで横になることで自然治癒することもあります。
特に水分を十分にとり、カフェインを含む飲料(コーヒーなど)を適度に摂取すると、髄液の産生が促されると考えられています。
また、体を起こす時間を減らし、安静を保つことが回復の第一歩です。

ブラッドパッチ療法(硬膜外自家血注入)

保存療法で改善がみられない場合や症状が強い場合に行われる治療法です。
患者様ご自身の血液を少量採取し、髄液が漏れている部位の周囲(硬膜外腔)に注入します。
血液が固まることで“パッチ”のように穴をふさぎ、髄液の漏れを防ぎます。
多くの方で1回の治療で症状が大きく改善し、数日以内に頭痛が軽くなることが多いです。

点滴治療・薬物療法

髄液の産生を促す薬や、血管を広げて頭痛を軽減する薬が用いられることもあります。
ただし、これらはあくまで補助的な治療であり、根本的な改善には安静やブラッドパッチ療法が中心となります。

生活上の注意

治療後も再発を防ぐためには、次のような点に注意が必要です。

  • 急な姿勢変化を避ける
  • 重い荷物を持たない
  • 咳やくしゃみを無理にこらえない
  • 十分な睡眠と水分補給を心がける

再発はまれですが、頭痛が再び現れた場合には早めの再診が大切です。

よくある質問(Q&A)

特発性低髄液圧症候群は自然に治ることがありますか?

軽度のケースでは、安静にしているだけで自然に改善することがあります。
特に髄液の漏れが少ない場合、体が自然に修復して圧が元に戻ることがあります。
ただし、頭痛やめまいが強いまま放置すると慢性化するおそれがあるため、医師の管理下で安静を保つことが大切です。

特発性低髄液圧症候群の再発率はどのくらいですか?

再発はおよそ10〜20%程度と報告されています。
再発の多くは、治療後すぐに激しい運動や無理な姿勢をとった場合に起こります。
治療後1〜2か月は無理をせず、荷物の持ち上げや長時間の立位を控えることが予防につながります。
また、水分補給を十分に行い、規則正しい生活を心がけましょう。

特発性低髄液圧症候群はどの科を受診すればよいですか?

主に脳神経内科または脳神経外科で診断・治療を行います。
初期症状が頭痛やめまいの場合、一般の内科で受診しても原因が特定できないことがあります。
そのような場合は、MRIや髄液検査に対応できる専門施設への受診が推奨されます。

仕事や学校はいつから再開できますか?

回復のスピードには個人差がありますが、症状が完全に消えてから少なくとも1〜2週間程度の安静期間を設けるのが理想です。
無理に復帰すると再発の原因になることもあります。
医師から「起き上がっても頭痛が出ない」と判断された時点で、段階的に復帰を進めましょう。
パソコン作業など頭を下げる姿勢を長く続ける場合は、こまめな休憩を取るようにしてください。

運動や入浴はいつから再開してよいですか?

症状が落ち着いても、すぐに激しい運動や長時間の入浴は避ける必要があります。
運動はウォーキングなどの軽いものから始め、無理のない範囲で徐々に慣らしていきましょう。
入浴も最初は短時間のシャワー程度から再開し、血圧変動による再発を防ぐことが大切です。

MRIやCTでは異常が見つからないこともありますか?

はい。特発性低髄液圧症候群では、発症初期には画像に変化が出ないことがあります。
髄液の漏れがごく少量の場合、MRIで見逃されることもありますが、時間の経過とともに特徴的な所見が現れることがあります。
症状が続く場合は、一定期間をおいて再検査を行うことで診断に至るケースも多いです。

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