一過性脳虚血発作とは
一過性脳虚血発作(TIA:Transient Ischemic Attack)とは、脳の血流が一時的に途絶えることで起こる発作のことを指します。
血流が止まっても短時間で再開するため、症状は数分から数十分で自然に回復することが多く、「一時的な脳梗塞の前触れ」とも呼ばれます。
発作そのものはすぐに治まることが多いため軽く見られがちですが、放置すると数日以内に脳梗塞を発症する危険性が高い重大なサインです。
一過性脳虚血発作は、脳卒中の“警報”ともいえる存在であり、発作後の早期受診と原因治療が非常に重要です。
一過性脳虚血発作の原因
主な原因は、脳の血管が一時的に詰まることです。
この詰まりは、血液の塊(血栓)が血管を塞ぐ「血栓性」、または心臓や頸動脈から飛んできた血栓が詰まる「塞栓性」の2つに分けられます。
具体的な背景としては、次のようなものが挙げられます。
- 動脈硬化(高血圧・糖尿病・脂質異常症などによる血管の老化)
- 心房細動などの不整脈による血栓形成
- 頸動脈狭窄症(首の血管が細くなり、血流が減る)
- 一時的な低血圧や脱水による脳血流の低下
これらの原因は、脳梗塞とほぼ共通しています。
したがって、一過性脳虚血発作を起こすということは、将来的に脳梗塞を起こす危険性が高い状態であることを意味します。
一過性脳虚血発作の症状
症状は、脳のどの部分で血流が途絶えたかによって異なります。
多くの場合、突然に症状が出現し、数分〜1時間以内に自然に消失します。
代表的な症状には以下のようなものがあります。
- 片側の手足や顔がしびれる・力が入らない
- 言葉が出にくい、ろれつが回らない
- 視界の一部が欠ける、二重に見える
- ふらつきやめまい、歩行が不安定になる
- 意識が一瞬遠のく、ぼーっとする
特に「顔」「腕」「言葉」に関する症状は要注意です。
英語圏ではこれを覚えやすく FAST(Face・Arm・Speech・Time) と表現し、早期発見を呼びかけています。
一過性脳虚血発作の早期発見のポイント
一過性脳虚血発作は短時間で回復するため、見逃されやすい疾患です。
しかし、発作後48時間以内に脳梗塞を起こす確率は10%前後といわれています。
次のようなサインが見られた場合は、「一時的でも異常」と捉えてすぐに受診しましょう。

- 急に片方の手足が動かしづらくなった
- 話している内容が理解できない、言葉が出にくい
- 一瞬だけ視界が欠けた
- 突然のふらつきや脱力感があった
「いつの間にか治ったから大丈夫」と自己判断せず、できるだけ早く脳神経外科・神経内科を受診することが大切です。
一過性脳虚血発作は、早期治療によって脳梗塞を防げる数少ないサインでもあります。
一過性脳虚血発作の検査・診断
受診時には、症状の経過を丁寧に聞き取ったうえで、脳の血流状態を確認するための検査が行われます。
MRI・MRA検査
脳や頸動脈の血管の状態を詳しく調べ、詰まりや狭窄を確認します。
CT検査
出血の有無や脳の形態的変化を把握します。
頸動脈エコー
血管内の動脈硬化やプラーク(血管のコブ)を調べます。
心電図・心エコー
心房細動など心臓に由来する血栓があるかを確認します。
血液検査
糖尿病・脂質異常症・高凝固状態などのリスク要因を評価します。
これらの検査を組み合わせて、どの血管が詰まりやすいか、再発の危険がどの程度あるかを総合的に判断します。
一過性脳虚血発作の再発予防・治療法
一過性脳虚血発作の治療は、脳梗塞の発症を防ぐことが最大の目的です。
発作そのものはすでに回復していても、血管の異常が残っている可能性があるため、原因に応じた治療が必要です。
薬物療法
抗血小板薬(アスピリンなど):血液を固まりにくくし、血栓の再発を防ぎます。
抗凝固薬
心房細動がある場合に用いられ、心臓由来の血栓を防止します。
高血圧・糖尿病・脂質異常症の治療薬
基礎疾患をしっかりコントロールすることも再発予防につながります。
外科的治療
頸動脈の狭窄が強い場合
頸動脈内膜剥離術(CEA)
詰まりの原因であるプラークを直接取り除く手術
頸動脈ステント留置術(CAS)
細くなった血管に金属の筒(ステント)を入れて広げる治療
などの外科的治療が行われることもあります。
生活習慣の改善
再発を防ぐためには、治療と同時に生活習慣の見直しも欠かせません。

- 血圧を適正に保つ
- 禁煙・節酒を徹底する
- 塩分・脂質を控えた食生活
- ウォーキングなどの軽い運動を習慣にする
- 睡眠不足やストレスを避ける
これらを意識的に続けることで、脳や血管の健康を守ることができます。
よくある質問(Q&A)
一過性脳虚血発作は完治しますか?
一過性脳虚血発作そのものは、脳の血流が一時的に途絶えるだけで脳細胞が壊死していないため、回復が可能です。
つまり、症状は一時的に治ることが多く「完治したように見える」場合もあります。
しかし、根本的な原因である血管の狭窄や動脈硬化を治さなければ再発のリスクは残ります。
完治というよりは、再発を防ぐために血管の状態を安定させていく治療が重要です。
一過性脳虚血発作と脳梗塞の違いは?
両者の違いは、脳の血流がどのくらいの時間止まっていたかによって決まります。
一過性脳虚血発作では、数分〜1時間以内に血流が再開し、脳細胞の損傷が残りません。
一方、脳梗塞は血流が長く途絶え、脳の組織が壊死してしまう状態です。
発症のメカニズムはほぼ同じですが、時間の経過によって結果が大きく変わるため、TIAの段階で治療を始めることが脳梗塞を防ぐ鍵になります。
一過性脳虚血発作の再発率は?
一過性脳虚血発作を経験した方の約10〜20%が3か月以内に再発すると報告されています。
特に高血圧・糖尿病・心房細動などの基礎疾患を持つ場合は、再発率がさらに上昇します。
再発防止には、薬物療法に加えて生活習慣の見直し(禁煙・節酒・減塩・適度な運動)が不可欠です。
また、定期的なMRI・MRA検査で血管の状態を確認し、変化を早期に捉えることが再発予防につながります。
一過性脳虚血発作の前兆はなんですか?
一過性脳虚血発作自体が、脳梗塞の前兆といえます。
その中でも、発作の前に「めまい」「首筋の違和感」「片側の手足のしびれ」などが起こることがあります。
また、会話中に突然言葉が出なくなる、視界がぼやける、一瞬意識が遠のくなどの一時的な変化も見逃せません。
これらは一見軽い症状でも、脳血流が一時的に低下しているサインの可能性があります。
いつもと違う感覚があれば、早めに脳神経外科を受診することが大切です。
一過性脳虚血発作を放置するとどうなる?
一過性脳虚血発作を放置すると、数日〜数週間以内に脳梗塞を発症するリスクが高まります。
特に発作後48時間以内は危険な期間とされており、放置すれば脳の血管が再び詰まり、今度は回復できないダメージを受ける可能性があります。
また、再発を繰り返すうちに慢性的な脳血流不足が進行し、認知機能やバランス感覚に影響を及ぼすこともあります。
症状が治っても安心せず、早期受診と原因治療を行うことが将来の脳梗塞予防につながります。


















